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女性のための「身体教養のススメ」~Botaniaにむけて~

14: 日常生活の中で使い覚えたこと 1~老婦人のフランス語~

大学卒業後すぐの頃三ヶ月ほどですが、泊まりこみでお世話になった老夫人がいました。
そのときの私のお役目は、ヘルペスを患って神経ブロックのために病院へ通う夫人の”付き添い 兼 家事手伝い 兼 お茶飲み仲間”という、二十歳そこそこで経験の少ない私には"楽しく学び多い"お役目でした。

夫人が、時折お越しになる旧友の方々に「お預かりのお嬢様」と私をご紹介くださるので恐縮していると、「大切なお友達を、お手伝いさんと思われるのは嫌なの」と可愛らしく笑う方でした。昔ながらの風習が色濃かった土地柄でしたから、”お手伝い”には”使用人”という意味が強かったのです。
私がウッカリと田園風景が絵付けされたガラスのランプシェードを壊してしまったときは、何よりも先に私の怪我の有無を気遣い、うろたえていた私に「形のある物は、壊れるのよ」と諭す様に慰めてくれました。きっと高価な物だったに違いありませんが、それだけにこの時の夫人の対応は今も深く響いて、私の”心の原風景”になっていると思います。

現在は私も”ご老人”の域に入り、当時”嫁入り講座”と称して折々に聴いた”ご老人への接し方”のウンチクは、今になっても有効性を実感します。例えば「次々に用事を言われたときは、一番最後の用事を先になさいね。だって、他のことは忘れているでしょう!?」。本当にそのとおりです。

その方は敬虔なクリスチャンの家庭に生まれ育ち、ご自身のために建てられた老後の家にも小さなチャペルを造り、日々に祈られていました。昭和初期に結婚し、商社マンだったご主人に伴い右も左も分からないフランスの地で長男を出産され、5~6年間を過ごされたので”フランス語”が話せました。
「でもね、日本ではフランス語が出てこないのよ。パリの飛行場に降り立つと、フランス語が出てくるのね。」

日常生活の中で実際に使い覚えた物事は、心身に沁みて消えることがないのだな・・と、そのときは漠然と感心していました。




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by k56422 | 2022-09-05 23:09 | 身体教養・リニューアル版 | Comments(0)